かける・・・かけない・・・かける・・・かけない・・・
そうブツブツ呟きながら、電話の前を行ったり来たり。
こんな日にかけるのは、やっぱマズイかな・・・
「英二。あんた何やってんの?」
ウロウロしてる俺の事が気になったのか、チイ姉が話しかけてきた。
「何でもないよ・・・」
「じゃあちょっと座ったら?」
「うっ・・・うん」
チイ姉に諭されて、仕方なくソファの上にゴロンと寝ころんで、また電話を見つめる。
一か八かでかけるなら・・・今だよな・・・
だけど・・・流石に元旦にかけるのは・・・
そう思いながらも、やっぱり電話のあるリビングから離れられない。
これじゃあ堂々巡りだ・・・
俺は大きく溜息をついた。
大石と最後に会ったのは、部活最終日の28日
29日から学校が始まるまでは部活も休みだから、大石に会うのは必然的に学校が始まってからになってしまう。
ホントはそんなの嫌だから部活最後の日にさり気無〜く大石を初詣に誘おうかと思ってたんだけど、誘う前にその思いも撃沈してしまった。
「ねぇねぇ。大石ってさぁ正月ってどうしてるの?」
「俺?俺は1日は家族で初詣に行って、2日からは父さんの田舎に帰る予定になってるけど・・・」
「いつまで?」
「えっと・・・まだハッキリとは決まってないけど、学校が始まる前の日ぐらいかな?」
「そうなんだ・・・」
「英二は?」
「俺は・・・じいちゃんとばあちゃんと一緒に住んでるからさ、みんなが会いにくんだよね。
だから正月は引っ切り無しに誰か来てて、騒がしいったらありゃしないよ」
「そうか。でも賑やかそうでいいじゃないか」
「良かないよ。元旦なんてさ、朝のうちはいいけど昼過ぎると大人は大人で盛り上がっちゃって相手してくんないし、兄ちゃんや姉ちゃん達もそれぞれ別行動だしさ。
つまんない」
「そうか・・・でもそれは仕方ないよ・・・」
「まぁね・・・わかってんだけどさ」
仕方ないって事は、俺にもわかってんだよ。
だから・・・ホントは大石誘って初詣行きたいって言おうと思ったんじゃんか・・
大石に会えるし、暇は潰せるし、一石二鳥!ってね・・・だけど・・・
元旦は親と初詣で・・・2日からは田舎に帰るんじゃ・・・・
誘っても無理だよな・・・・
そう思ったら、結局帰り際も何も言えなかった。
「今年も色々あったけどさ。来年もよろしくな!大石っ!」
「あぁ。こちらこそ、また来年もよろしく。英二」
「んじゃ。また来年学校でな!」
「あぁ。また来年学校で・・・」
平気な振りして歯食い縛って・・・
明るくバイバイって手を振って・・・
だけどこんな気持ちになるなら、一か八かであの時に言ってしまえば良かったかな。
だって俺・・・こんなにも大石に会いたい。
会って顔見て『英二』って呼んでもらって・・・
大石・・・会いたいよ・・・
こんな風に思っちゃいけないのかも知れないけど・・・・
好きだって想い・・・抑えなくっちゃって思うけど・・・
この気持ちが恋なんだって気付いてから、どんなに頑張っても大石への想いは大きくなる一方で、正直自分の気持ちを持て余してる。
バレたくないけど・・・一緒にいたい
凄く矛盾してるけど・・・
でも俺・・・もういっぱいいっぱいなんだよ。
大石に自分の気持ちがバレて、一緒にいられなくなるのは絶対に嫌だけど、こんな風に会えない日々が続くのもホント嫌なんだ。
こんな時はどうしたらいいんだろう?
いつもならみんなを巻き込んでって手もあるけど・・・
今回は頼みの綱の不二が年末からスキーに行っちゃってるし・・・
やっぱ勇気だしてかけてみるのが一番いいのかな・・・
さり気無く友達として誘えば、変じゃないよな?
男二人で初詣だって不思議じゃないよな?
俺が考えあぐねていると、それまで沈黙を守っていた電話のベルがまったりと寛いでいるリビングに響き渡った。
「英二。出てよ」
正月番組に釘付けのチイ姉がテレビから目線を外さずに言ってくる。
「えー!なんで俺なんだよ」
非難しながらリビングを見渡すと、両親は親戚の人達と盛り上がってて、チイ兄はソファにもたれて眠っている。
「早く出ないと切れちゃうよ」
相変わらずテレビに釘付けのチイ姉の言葉に俺は舌打ちした。
チェッ・・・今は電話に出たくない気分なのにさ・・・
あぁ〜ホントにやんなっちゃうなぁ・・・もうっ!
心の中でぼやいて、仕方なく立ち上がって受話器を取った。
「はい。もしもし・・菊丸ですけど」
無愛想に出ると、受話器の向こうからは何の返答も無い。
何だよ・・・間違いか?悪戯か?ったくこんな気分の時に最悪だ・・・
「もしもーし!しゃべんないなら切りますよー」
そう言って受話器を置こうとしたら、申し訳なさそうに話す声が微かに聴こえた。
「あ・・あの大石ですけど・・・えいじくん・・」
えっ?えぇぇー?おっ大石?
「おっ!大石!!!」
まさか大石からかかってくるなんて思ってなくて、嬉しさのあまり大きな声で叫んでしまった。
リビングにいたみんなが一斉に俺の方を振り向く。
俺は片手でごめんって仕草をして、壁の方へ顔を向けて、電話の向こうにいる大石へと意識を集中させた。
「どっどうしたんだよ?」
「あっごめん・・・突然・・・ひょっとして忙しかった?」
「な訳ないじゃん!俺、前に退屈でつまんないって話しただろ?」
「そうだよな。うん。良かった」
「えっ?」
良かったって・・・大石?
「前に英二がそう言ってたから、家にいるのかな?と思って、もしそれで暇を持て余しているなら一緒に初詣なんてどうかな・・・
って思ってかけてみたんだけど」
「初詣・・・俺と?」
「うん」
「あっでも・・・家族と行くって言ってたじゃん。あれはどうなったの?」
「家族とは午前中に行ってきたから・・・それより英二・・その・・どうかな?」
そっ・・そっかぁ・・・家族とはもう行って来たんだ・・・
それで俺の事も忘れずに覚えててくれて・・・
ちゃんと誘ってくれるなんて・・・
大石と一緒に・・・初詣かぁ・・・
「英二?」
「へっ?あっ・・うん!行く!行く!行くに決まってんじゃん!俺も実はさぁー
大石に電話しようかな?って思って悩んでたんだ〜!だからグッドタイミング!」
ちょっと恥ずかしくなって、おどけて言うと電話の向こうで大石が苦笑する。
「そっか。うん。じゃあ俺もかけて良かった」
優しい大石の声
大石・・・ヘヘッ・・・
「んじゃさ何処で待ち合わせする?」
「そうだな、英二は何処に初詣行きたい?」
「う〜ん・・・明治神宮!」
「えっ?明治神宮?・・・っていいけど、たぶん人多いよ」
「いいのいいの!ちょっとさ、行ってみたいなって思ってたんだよね」
「そっか、わかった。じゃあ待ち合わせは今から30分後に駅前ってどうかな?」
「うん!OK!30分後に駅前ね!大石遅れんなよ!」
「それは英二だろ」
「ニャハハハ・・・まっ後で!」
「あぁ。じゃあまた後で」
やった!!
電話を切って、グッとガッツポーズ
大石は俺がつまんないって話をしたから誘ってくれたんだろうけど・・・
めちゃくちゃ嬉しい。
大石に会えるなんて・・・大石から誘ってくれるなんて・・・
好きだって想いを出しちゃいけないんだろうけど、顔がにやけて仕方ない。
俺ホントに大石に会いたかったんだ。
久々の1年生英二です。まだ告白前で悶々としてる時の英二を書いてみました☆
しかも・・・世の中バレンタインの雰囲気なのに・・・今頃初詣の話(笑)
そして実は1度も行った事がない明治神宮が舞台(テレビでしか観た事が無い)
なので何か変だなって思っても・・・温かい目でスルーしてやって下さい☆
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